bookmemo2017’s blog

読んだ本の記録

逆説の法則(西成 活裕)

経済が縮小傾向にあると、人はつい短期的な思考に陥る。目先の利益を優先させるあまり技術の蓄積が疎かになり、次世代を支える長期プロジェクトも立てにくくなる。10年前に渋滞学を世に問うた数理物理学者が、「長期的思考」がいかに正しいかを多くのロジックで証明。ビジネスに応用できる「四つの逆説の法則」が企業を救う。

 

 

他人への親切は自分の将来のための投資、とも言える。私の周囲でも、特に人より裕福なわけではないが、他人のためにお土産を買ったり食事をご馳走したりするのが好きな人がいる。その人は確かに自分のお金をたくさん消費してしまうが、見ていると逆にそれ以上の様々なお返しをいろいろな人から受けて幸せそうである。イギリスの哲学者ジョン・ロックは、「もっとも気前のよい人は、いつも一番多く持つことになり、その上尊敬、称賛まで得るものである」と述べている。

 

 

様々な企業の制服を作る会社の話を聞いたのだが、営業戦略としてまず顧客企業の全社員分の制服を作り、1年間無料でそれを着ていただくのだそうだ。全員分の制服を作るコストはかなりのものであるが、それでも構わずに1年間もサービスをする。それだけ長期間着用すれば、皆が慣れて愛着も出てくるため、その後の契約も取りやすくなるのだそうだ。そのため長い目でみれば結局売り上げにつながり、今や業界では大手に成長している。

 

 

その損保会社は、どれぐらい説明をじっと聞き続けるとイライラしてくるかについて実験をしたそうだ。その結果、平均14分ということが分かり、説明は14分以内で終わらせる、ということを決めたのだ。そしてそのために必要事項を紙に書いてみたところ、ちょうどA3の大きさに紙1枚でまとめることができた。そうして営業回りしたところ、成約率がアップしたそうで、売りたいがための過剰説明を無くして逆に利益が向上した、という結果が得られたのだ。

 

無印良品で有名な良品計画が赤字で苦しんでいた時に作り上げた、ムジグラムという社内マニュアルが有名である。ここには様々な仕事の進め方やその意味などが詳細に記されており、それを社員が共有することで一気通貫の組織になれたのだ。その後見事に経営再建に成功し、今や海外展開も好調で黒字街道まっしぐらである。つまり「目的」「期間」「立場」を組織で共有化することが何より大事で、山田先生の言葉を借りれば、「改善は知識よりも意識」なのである。

 

 

「レスポンシブルカンパニー」には自然の役割について興味深い記述があった。それは世界の食糧生産のうち3分の1は、虫や動物の受粉に頼っているそうだ。この動物たちの無償の協力で食糧生産が成り立っているのだが、もしも環境破壊によって受粉が思うようにできなくなったら、誰がそのコストを負担するのだろうか。

 

 

全体を部分に分け、その部分ごとに個別対応していく方が多くの場合で効率が良くなるのだ。これはランチェスターの法則と言われており、もともとは軍事戦略の中で研究されてきたものである。敵をすべてまとめて狙うのではなく、うまく部分に分割し、まずはその一つの部分だけを集中して狙っていく方が、結局は有利に戦うことができる、ということが数学的に証明できるのだ。

 

 

無理な成長は必ず組織のどこかにひずみを生んでしまうため、短命になりがちである。これを伊都食品工業の塚超寛会長は年輪経営と呼び、少しずつ会社を成長させることを唱えている。そのおかげで操業以来48年連続増収増益となっており、今や世界のトヨタ自動車もこの年輪経営に注目しているのだ。

 

 

京セラでは、小組織はアメーバと呼ばれ、このアメーバごとに独立採算にして自主性を重んじる。そして全従業員がこのアメーバという小単位を通じて、会社の経営に共同で参画しているという実感を持つことができるのだ。また、組織を細分化できるときは、多少のコスト増になっても分割していくべきである、と稲盛氏は主張している。これにより、分割された事業がまた伸びていく可能性があり、そうなれば長い目でみてそのコスト増を上回る採算になることができるのだ。

人類学者のロビン・ダンバーは、人が安定して関係を保てる人数の上限として、ダンバー数と呼ばれている150人を提案している。そしてマイクロソフトインテルも、建物一棟あたりの社員数を150人までとしているそうだ。

 

 

期間設定を長くとれば失敗は無駄にならず、やはり「負けるが勝ち」なのだ。グーグルは「賢く失敗せよ」という標語を社内で掲げており、これは皆にリスクを取ってほしいというメッセージである。そうでなければ革新的なアイデアは生まれてこない、ということで、社内に失敗を許容する風土を構築しているのだ。

 

 

ある提案を議論する際に、ただ単に会議で報告を受けて皆で考える、というものではなく、全員をまず賛成派グループと反対派グループのどちらかに機械的に振り分け、相手を論破していく議論をする。次にその賛成派と反対派を入れ替え、また相手を論破する勝負をするのである。その際に、自分の真意は賛成でも反対でもどちらでもよい。とにかく割り振られた立場で徹底的に相手を論破する議論を展開していくのだ。これをすることで、両方の立場の真意が自然に理解できるようになり、また様々な盲点にも気づくようになる。その後に採決をすれば、より納得のいく、そして正しい方向に向いた結論が下せるようになるだろう。これは特にある提案に対して意見が割れている時ほど効果的で、このロールプレイングによって組織内での対立が解消したという事例もあるのだ。

 

 

教育の最大のポイントは、T型人間の育成である。Tの縦棒は、専門性を持つことで深く掘り下げることの出来る能力を意味し、横棒は周辺分野を幅広く知っていることを意味している。私の好きな言葉に、「一つしか知らない人は、何も知らない人である」というものがあるが、多方面から見ることができる目を持つ人物こそ社会で活躍できる人なのである。

 

 

先日ある経営者に聞いたのだが、通常は一つの事業は持ってせいぜい7年だそうだ。その内訳だが、はじめの2年は立ち上げで苦労し、中3年間のみ利益が出て、そして最後の2年はライバルとの消耗戦になるのだ。

 多くの事業が必要ですね。