bookmemo2017’s blog

読んだ本の記録

教団X(中村 文則)

謎のカルト教団と革命の予感。自分の元から去った女性は、公安から身を隠すオカルト教団の中へ消えた。絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。著者最長にして圧倒的最高傑作。

 

 

人間の身体は、無数の原子でできています。それはもう、莫大な数です。当然ながら、脳もミクロの世界で見れば、無数の原子、その結合によって形作られてます。

 

 

ベンジャミン・リベットという科学者による有名な実験です。その実験によると、人間は、何かをしようと意志を起こす時、実はその意志を起こすよりも前に、本人にもわからないところで、既に脳のその部位が反応してるというのです。どういうことでしょうか?つまり、指を動かそうとする意志よりも先に、その指を動かす役割になっている脳の神経回路が、すでに反応しているのです。その実験では、脳が指を動かそうと反応した0.35秒後に、意識、つまり「私」が指を動かそう、という意志をもつ。

 

 

そして多くの脳科学者は言います。意識は「私」を司る脳の特定の部位は存在しない。脳の大局的な働きによって意識「私」が生まれる。

 

 

「あなたと一緒で、幸せでした」「女房に、こう言わせたら、その男は勝利者だね」

 

 

ではなぜ物語が必要なのか?それはわかりません。ですが、この世界は物語を欲している。原子は、人間という存在を創り出す可能性に満ち満ちていたのだから、物語を創り出す可能性にも満ち満ちていたことになる。我々の不安定な生からなる様々な物語が何に役立っているのかはわからない。でも、世界とは恐らくそういうものなのです。世界の成り立ちに、つまり原子にその可能性が満ち満ちていたという証拠から、我々は物語を発生させるために生きていると考えていい。

 

 

原子まで細分化した創造の世界へ落ちる感覚は心地よかったです。