bookmemo2017’s blog

読んだ本の記録

★-会津執権の栄誉(佐藤巖太郎)

★おすすめの本です。

 

四百年の長きにわたり会津を治めてきた芦名家。
しかし十八代目当主が家臣の手にかかって殺されたことから
男系の嫡流が断たれ、常陸佐竹義重の二男、義広が
婿養子として芦名家を継ぐことにに決まった。

血脈の正当性なき家督相続に動揺する、芦名家譜代の家臣たち。
義広が引き連れてきた佐竹の家臣団との間に、激しい軋轢が生じる。

揺れ動く芦名家に戦を仕掛けるのが、奥州統一を企てる伊達家の新当主、伊達政宗
身中に矛盾を抱えたまま、芦名氏は伊達氏との最終決戦、摺上原の戦いに至る。

「夢幻の扉」でオール讀物新人賞を受賞した佐藤巖太郎が
滅亡に向かう名家と、戦国武将の意地を克明に描き切った傑作。

 

 

ひとしきりの感情の氾濫の後、落ち着きが戻った。

そして一点の誤りに気づいた。

真に従順な家臣はいる。

自分が一番よく知っていた。芳正の最も身近なところにいた。その男はいま、槍一本を持って猪苗代城に探索に向かっている。そして、戻って来て言うだろう。

やろうと思ったことをおやりなさいませ、と。

 

 

払うことのできない時雨が衣を濡らすならば、いっそのこと脱ぎ捨ててしまえばよかったのだ。そう考えたら、不思議と躰が軽くなった。当たり前のことに気づいたのだ。生まれ落ちた時、初めて戦場を駆け巡った時、飾りも重荷も、何も背負っていなかった。

 

 

政宗はもう一度、蝉の抜け殻を見た。その抜け殻を草履の先で蹴り飛ばす。中身のない空っぽの残骸が転がった。

(まだ終わっていない)

眼帯の白布に手を当てた。あきらめるのはまだ早い。不幸にも幼い時に右目を失った代わりに、暗闇には慣れていた。そのお陰で、暗闇の中に隠れているものを見ることができた。人は誰しもがこころの中に、暗闇を・・・言い換えれば恐れや弱みを抱え込んでいる。その恐れや弱みこそが、人の行動の大部分を支配している。勇猛な武者が一度生死の境をさまようと、人が変わったように臆病になるのと同じで、一度抱いた恐れが知らず知らずにその後の当人の行動を決定づけている。

 

ひとつの史実に人の数だけ物語あり。ひとつの物語がもう一つの物語の伏線となる。

会津芦名家に惚れました。