bookmemo2017’s blog

読んだ本の記録

★-敵の名は、宮本武蔵(木下 昌輝 )

★おすすめの本です。

 

七人の敗者たちから描く、剣聖の真の姿。 かつてない宮本武蔵像が誕生した 剣聖と呼ばれた男の真の姿とは──。島原沖畷の戦いで“童殺し”の悪名を背負い、家中を追放された鹿島新当流の有馬喜兵衛の前に、宮本無二斎と、弁助(武蔵)と呼ばれる十二、三歳の子供が現れた。弁助は、「生死無用」の真剣で果し合いをするというのだが……。(「有馬喜兵衛の童討ち」より)少女を救うため、避けられぬ戦いに命を賭す「クサリ鎌のシシド」、武蔵の絵に惹きつけられるも、一対一の勝負に臨む「吉岡憲法の色」、武蔵の弟子たちが見た剣の極地「皆伝の太刀」、武蔵と戦う宿命を背負った小次郎「巌流の剣」、そして次には……。敵たちの目に映った宮本武蔵。その真の姿とは──。著者渾身の歴史小説

 

 

「有馬喜兵衛の童打ち」

島原沖田畷の戦いで“童殺し”の悪名を背負い、家中を追放された鹿島新当流の有馬喜兵衛の前に、宮本無二斎と、弁助(武蔵)と呼ばれる十二、三歳の子どもが喜兵衛の前に現れた。弁助は、「生死無用」の真剣で果たし合いをするというのだが…。

 

「うぬぼれるな。止める気なんかないよ」ガタリと木板に人の体が当たる音がした。「せめて、別れの挨拶ぐらいしていけ。それでも男か」女の罵声を背で受け止めて、走る。背後から、さらに何かが聞こえてきた。女のすすり泣く声だ。足や腰にまとわりつき、喜兵衛の心を湿らせる。

 

「クサリ鎌のシシド」

人買いにすら見捨てられた自らの命を、千春によって救われたシシド。だが、貧しい境遇の2人は、引き裂かれる運命にあった―。哀しき邂逅と、避けられぬ戦いが迫る。

 

武蔵は銭を受け取る素振りを見せない。思いつくままに、シシドは口を開く。「おいらを最初に買ったのは、異人だった。」(中略)視界が白くぼやけてくる。ジャラリと銭を持ち上げる音がした。安堵が、急速に生きる執念を奪っていく。

 

 

吉岡憲法の色」

かつて染め物を業としていた京八流の名門剣術流派、吉岡流。その跡継ぎとなった吉岡源左衛門は、武蔵が描いたという絵に衝撃を受けた。幾内を席巻しつつある宮本武蔵とは、何者か。憲法の名を継いだ源左衛門は、勝負のなかで武蔵になにを視るのか。

 

「この色は弱い」武蔵の一声に、静かなどよめきが広がる。「お、お言葉ですが、武蔵様。これは金気の少ない京の水で染めたものでございます」珍しく不機嫌さが滲む声で吹太屋は説く。「数百年経っても褪せぬ技法で生んだ色であることは、大和や京の古刹に残る染物からも明らかでございます」沈黙が降り積もるかのような間が、またしても生まれた。知らず知らずのうちに、憲法は拳を握り締めている。二十歳程度の武芸者の評に、どうして己はこうまでこだわっているのか。武蔵の若い声が、襖越しから再び聞こえてくる。「あるいは千年経っても蔵の中では残るかもしれない」武蔵の評に、人々が唾を呑む音も聞こえてきた。「が人々の心には残らぬ色だ」客たちは呻き声を上げた。

 

「皆伝の太刀」

吉岡憲法との戦いの後、江戸の道場で弟子たちと剣を交す武蔵。だが武蔵の剣は、いままでの殺気みなぎるものでは無くなっていた。弟子を引き連れてやってきた屋敷では、全く異なる真剣勝負が待っていた。

 

「武蔵殿は見るのではなく、観ている」

 

 

「巌流の剣」

宮本無二の弟子・本位田外記の二刀流を遣う津田小次郎は、鹿島新当流の遠山を一刀で打ち負かすほどになっていた。外記からの思いもよらぬ手紙を受け取った小次郎は、外記を救うために、美作へ向かう。だが、そこで出逢ったのは圧倒的な強さの“美作の狂犬”だった。

 

これが赤子というものか。小次郎の腕の中に、柔らかくももろいものが確かに息づいていた。紺色の襁褓の中で小さな腕を折り畳み、小次郎の胸に額をすりつけるようにして眠る。こんなにも弱いものが、これほど無防備に己の腕の中にあることに戸惑っていた。

 

 

「無二の十字架」  

前五篇の秘密が明かされる。そして運命の闘いが待ち受ける。

 

なぜか、足が重い。今なら童が斬りかかっても、容易く殺されてしまうだろう。月に、顔を向ける。「己は犬だ」拳を強く握りしめながら叫んだ。「主の言うことを、誰よりも忠実に守る」そう宣言すると、ほんの少しだけ足は軽さを取り戻した。

 

 

「武蔵の絵」

書き下ろしの最終章。巌流島の戦いから二十数年。消息が途絶えていた武蔵の噂を聞いた吉岡源左衛門は、京都を発ち九州へ向かうが…。かつての敵は、生きているのか。

 

武蔵は色を使うことなく、墨の濃淡だけで多彩な色を生み出したのだ。

 

この本から何かを学びたいと読み始めるが、すごい腕力で物語のなかに引き込まれ、それどころではなくなりました。

 

充実した読書時間を過ごすことができました。